弦理論に基づいたインフレーションモデルを構築しようとすると、一般的にはインフレーションを引き起こすスカラー場が複数となる。この特徴に注目し、複数のスカラー場によってインフレーションが駆動された場合に生成される宇宙論的揺らぎ(曲率揺らぎ)、特にそれらの長波長領域での発展を評価する為のフォーマリズムについて研究を行った。 通常、宇宙論的揺らぎの長波長領域での解析においては、その基礎方程式において空間微分の影響は無視される。しかしながら、インフレーションを引き起こすスカラー場(インフラトン)の運動が急激に変化する場合などにおいては、空間微分の影響を無視できない事が知られている。このようなインフラトンの運動の急激な変化は、インフラトンが複数存在する時にはより自然に起こる事が期待され、それらの影響を正確に評価する事は、インフラトンの数の特定、ひいては弦理論的インフレーションモデルの検証につながる非常に重要な研究である。インフラトンが複数存在すると、その自由度の多さの為に単一場の場合とは大きく異なる手法が必要となったが、時間座標をうまく選んで基礎方程式を解く事により、空間微分の影響を含んだ宇宙論的揺らぎの一般解を構成する事に成功した。 さらに本年は、宇宙論的揺らぎを評価する為に用いられてきた種々のフォーマリズムの関係、特にそれらの等価性を示した。宇宙論的揺らぎの長波長極限での振る舞いに特化したデルタ N フォーマリズムや、物質場の発展方程式に基づいて宇宙論的揺らぎを評価しようとするコバリアントフォーマリズムなど、宇宙論的揺らぎを評価するフォーマリズムはいくつか存在する。これらの間の関係は線形理論の範囲ではよく理解されているが、非線形領域までの関係については明らかにされていなかった。そこで、一般座標変換に共変的な重力理論一般に適用できる、これらフォーマリズム間の等価性に関する証明を与えた。
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