本研究は欧州原子核研究機構(CERN)に建設された大型陽子-陽子衝突型加速器(LHC)を用いて行われるATLAS実験に於いて、終状態にb-quarkを含むHiggs粒子を探索する実験的研究である。本年度は実験開始年に当たる年であり、実際にLHCが2009年11月に稼働し始めATLAS実験が開始された。実験開始前の時期にはATLAS検出器の試運転として、検出器の一つであるSemiConductor Tracker(SCT)の運転、較正に携わった。SCTは荷電粒子飛跡検出器の一つであり、これを設計通りの性能で動作させる事が本研究に非常に重要である。なぜなら、この性能がb-quark同定に大きく関わってくる為である。具体的な研究としては、SCTの性能を監視するシステムの開発を行った。この監視システムはATLAS実験で共通に使われているDatabaseを上手く利用する。SCTの運転を行う上で興味深いデータをDatabaseにアップロードするシステムを完成させ、そのDatabaseに簡単にアクセス出来るブラウザを開発した。これにより、SCTの運転に関わる全ての人が即座に取得したデータを見る事が出来る環境が整った。実際に実験が開始された11月以降にこのシステムを利用し、SCTの運転にフィードバックを掛ける事ができ、実験最初期の検出器のスムーズな運転に貢献出来た。また、このシステムはSCTの性能の長期監視も視野に入れている。今後10年近く続くATLAS実験に於いて、SCTの性能の長期変化を見る事が可能である。質のよいデータを長期取得する為、今後もこのシステムを用いて、本研究を行うに足る質のよいデータの取得を目指していく予定である。
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