申請書の計画通り、金-トリエチニルホスフィン錯体触媒を用い、種々の環化反応へと適用した結果以下のような成果が得られた。まず、シリルエノールエーテルを求核部位としたアルキンの環化反応では、前例のない7員環形成が行えることがわかった。同反応において、既存の金触媒を用いた場合では、5員環と6員環形成は容易であるが、7員環形成を達成した例はない。従って本発見は有機合成化学的にも重要であると思われる。現在、反応条件最適化が終了し、様々な基質を合成し、適用範囲の検討中である。その他アルケンの環化反応において、アルコール、アミン、エノールをそれぞれ求核部位にもつ基質の反応を検討したが、効果的な6、7員環形成へは至らなかった。また、本触媒を用いた8員環形成を種々の環化反応において検討した結果、わずかながら反応が進行することがわかったが、環化体の収率が低いため、実用レベルには至らなかった。また、本研究を行う過程で、ロジウム触媒を用いた炭酸プロパルギル類とシリルホウ酸エステルのカップリング反応により、アレニルシランの新規合成法の発見・確立に成功した。アレニルシランは有機合成化学において有用な有機金属試薬であり、様々な変換反応へと用いられている。アレニルシラン合成の従来法では官能基許容性が乏しいなどの欠点があった。また、不活性ガス雰囲気下で実験操作を行わなければならないなどの煩雑さがあった。今回研究者らが開発した新規合成法は、空気中で簡便に操作可能であり、またエステル、アミド、アルコールといった官能基を有するアレニルシランであっても高収率で合成することができる。また、光学活性な炭酸プロパルギル類を用いた反応では、ほぼ完ぺきな不斉転写を経て軸不斉アレニルシランを得ることができた。従って、本反応は、既存の合成法にとってかわる実用的かつ有用な合成法となりえる可能性がある。
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