ショウジョウバエにおいて器官改変を引き起こす遺伝子winged eye(wge)は、転写抑制状態又は転写活性化状態を維持する蛋白質PcG/trxGとの関わりが示唆されている。そこで本研究ではPcG/trxG response element(PRE/TRE)の1つであるFab-7 elementに対して、wgeがどのように機能するか検討を行った。実験には、Fab-7 elementのDNAコンストラクトとwge変異体、PcG変異体、trxG変異体、wge/PcG二重変異体、wge/trxG二重変異体、PcG/trxG二重変異体を持ったショウジョウバエ個体を作製し、複眼の赤さを調べた。その結果、wgeはFab-7 elementに対してtrxG様機能を示し転写活性化状態の維持に関わることが明らかとなった。さらに、複眼から翅への改変に重要と思われるvestigial(vg)遺伝子のPRE/TREについても同様の実験を行ったところ、wgeはvg PRE/TREにしPcG様機能つまり転写抑制状態の維持に関わるととが示された。これらの結果は、wgeが状況に応じて異なる機能を示すことを示唆しており、従来のPcG/trxGとは異なるもののPRE/TREを介したエピジェネティックな制御に関わっているのではないかと考えられる。また、本研究では、wgeの標的遺伝子・遺伝子座の同定を目的とし、クロマチン免疫沈降とタイリングアレイを組み合わせたChip-on-chipによりWGE蛋白質の標的遺伝子座を網羅的に解析しようと考えている。本年度はそのため準備として、WGE蛋白質を発現する培養細胞の作製、DNAサンプルの調整法、蛋白質とDNAのクロスリンク、超音波によるクロマチンの断片化、免疫沈降の条件検討を行った。今後、実際にChip-on-chipを行い、WGE蛋白質の標的遺伝子座を同定したい。
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