研究概要 |
本年度では,ウニ胚においてzinc-finger nuclease (ZFN)を利用した標的遺伝子座へのレポーター遺伝子挿入技術を確立し,内在遺伝子の発現を定量化することで,多細胞生物の発生過程における遺伝子発現のゆらぎに関する知見を得ることを目的として以下の通り研究を実施した。ZFNはDNA結合ドメインとヌクレーゼドメインからなる人工タンパク質で,任意のDNA塩基配列領域へDNA二重鎖切断(DSB)を導入できる。DSBは細胞内で速やかに修復されるが,外来のターゲティングベクターとDSB周辺領域で相同組換え修復が起こることで,レポーター遺伝子が特定遺伝子座へ効率的に導入されることが知られている。まずウニ胚で標的遺伝子座へのレポーター遺伝子挿入が可能かどうかを確かめるために,昨年度に確立したZFN作製技術を利用して,ウニEts遺伝子のストップコドン直前を標的とするZFNを作製した。Ets ZFN mRNAと,2A-H2B-GFP遺伝子とその両端に約1kbpのEts遺伝子座と相同な配列を含んだターゲティングドナー構築をウニ胚に導入したところ,ゲノミックPCRでEts遺伝子座へのレポーター遺伝子挿入が確認され,また蛍光顕微鏡観察からEts発現細胞のみでGFPが発現していることがわかった。これらのことから,Ets遺伝子座に挿入されたレポーター遺伝子は内在遺伝子プロモーターによって発現が調節され,GFP蛍光強度はEts遺伝子の発現量を反映することが示唆された。経時的な遺伝子発現動態を解析するために,Ets ZFN mRNAとターゲティングドナー構築を共導入した胚を共焦点レーザー顕微鏡で経時的に観察した。その結果,1個体内の細胞間で遺伝子発現動態のばらつきが認められた。このことから,ウニの発生過程において恥遺伝子の発現は細胞間でゆらいでいることが示唆された。
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