本研究では、エンドリソソーム性アスパラギン酸プロテアーゼであるカテプシンEが正常細胞に影響を及ぼすことなく抗腫瘍効果を発揮することに着目し、カテプシンEを用いた新たな抗癌療法の開発検討を行うと共に、カテプシンEの腫瘍免疫における役割について検討した。 カテプシンEは癌細胞特異的アポトーシス誘導因子であるTRAILを癌細胞膜上より切断、遊離すること等の複数の機構を介して抗腫瘍効果を発揮する。前立腺癌細胞に対してカテプシンEと抗癌剤ドキソルビシンを併用投与した結果、抗腫瘍効果が相乗的に発揮されることが前年度までにin vitroおよびin vivoの実験系にて明らかとなった。今年度においては、各種口腔癌細胞株に対して、カテプシンEと抗癌剤ドセタキセルを併用投与することによって、癌細胞の増殖抑制効果を相乗的に発揮することが、in vitroにおけるisobolographic解析を用いて明らかとなった。また、その腫瘍増殖抑制効果はTRAILの受容体であるDR4、DR5等の発現や細胞内抗アポトーシス因子c-FLIPの発現が変動することによって、引き起こされたものであることがわかった。また、in vivoにおける解析では、カテプシンEの腫瘍内直接投与では、主要な臓器への影響はほとんど認めず、腫瘍増殖抑制効果が示された。さらにカテプシンE発現量の異なる遺伝子改変マウスに皮膚癌誘発実験を行ったところ、カテプシンE発現量に応じて腫瘍周囲に免疫系細胞の浸潤を認め、その結果、腫瘍の増殖・悪性転化が抑制されていることが示唆された。これらのことからカテプシンEが複数の機構を介して抗腫瘍効果を発揮することが明らかとなり、また、カテプシンEを外来性に投与した場合、その効果は通常用いられている抗癌剤と併用可能であり、両者の投与量を減じた副作用の少ない抗癌療法の実現が期待された。
|