平成21年度前半では、既に明らかにしていたsFRP(Frzb、Cres)によるWntリガンドの拡散性上昇に関して、それを裏付ける種々の実験をおこなった。まずWntの標準経路シグナルによって活性化されるTOP-FLASHレポーター遺伝子を用いてWnt8のシグナル活性を調べた結果、Wnt8は微量のsFRP共発現時において、拡散性を高めることでシグナルを強めうることが示唆された。更に内在性のotx2遺伝子の発現パターンをin situ hybridization法により可視化することで、sFRPがWntのシグナル範囲を拡大しうることをより直接的に示した。またモルフォリノアンチセンスオリゴ(MO)を用いたsFRPの機能阻害実験を行い、in vivoでのsFRPの役割を解析した。このために核内のbeta-cateninのシグナルのみを抽出してプロットする手法を考案した。この手法を用いてMO胚と正常胚のWnt活性勾配を比較したところ、腹側の植物極から動物極にかけて、MO胚では正常胚よりも勾配が急になっていた。このことからin vivoでもsFRPがWntの輸送分子されたとして、活性勾配を調節していることが示唆された。以上の結果はDevelopment誌で発表した。平成21年度後半で405nmの近紫外光の照射によって、緑から赤へと蛍光特性を変化させる光変換型の蛍光蛋白質mKikGRを用いた、分泌性蛋白質の局所的標識実験による解析を開始した。この手法を用いて、従来法で大きな拡散性の違いがあることを示してきたWnt8とFrzbの間には、動的な拡散のレベルでも差がみられることを見いだした。同時に拡散性が低いWnt8は細胞膜あるいは細胞外基質などに結合していると思われる不動画分が多い一方、拡散性が高いFrzbは自由拡散していると考えられる分子の割合が多いということも明らかになった。
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