本年度は、ダイズ個葉の形態形質の遺伝的変異を明らかとするとともに、その生産性への寄与を水環境適応性との関連において評価した。まず個葉の形態形質については、日本・米国・およびアジア各国由来の多様なダイズ約70品種を対象に、形態形質の遺伝的変異を網羅的に調査した。その結果、特に気孔密度に非常に大きな遺伝的変異が存在していることが明らかとなり、その品種間差異は前年行った予備的な調査結果と高い相関を示した。このような個葉の構造から、個葉の蒸散活性の一つの指標としてポテンシャル気孔コンダクタンス(gp)を導出し、gpにも大きな品種間差異のあることを見出した。米国で育成された品種では気孔密度およびgpが明らかに高い傾向があり、これらの品種で優れたガス交換活性が実現していることが予測された。次に、代表的な日米ダイズ7品種について圃場における生産性試験を実施したところ、好適な水分条件下においては収量・バイオマス生産性ともに米国品種が日本品種を上回った。同圃場において実測された気孔コンダクタンス(gs)も米国品種で明らかに高く、上述の予測が実証されるとともに、このような高い個葉のガス交換能が米国品種の優れたバイオマス生産に寄与している可能性が示された。同実験では、防水シートの設置による干ばつ処理区を設けた。干ばつ区では日米品種ともに気孔コンダクタンスが約半分まで低下していた。さらに最終的な子実収量も10~20%低下したが、これらの低下程度に明瞭な品種間差を見出すことは出来なかった。本研究は、ダイズにおいて、気孔密度に代表される個葉の形態形質がガス交換能、ひいては品種のバイオマス生産性に関連する可能性を示したことにおいて意義を有する。
|