動物の体を作る各種の細胞は、原腸陥入の前後に作られる外、中、内胚葉の間の相互作用によって作られる。近年、中胚葉と内胚葉は中内胚葉細胞から作られることがわかってきた。しかし、中内胚葉の細胞のうち、どれが中胚葉になり、どれが内胚葉になるのか決めている機構、すなわち中胚葉と内胚葉の運命を分けている機構については非常に少ない情報しか得られていない。 前年度はNot mRNAを中内胚葉細胞の将来中胚葉細胞を生じる領域に局在させる機構を調べ、分裂前の細胞の核の移動とWnt依存的なNot mRNAの繋留が重要であることを明らかにした。この内容を今年度のDevelopmental Cell誌に掲載することができた。ホヤの論文としては初めての快挙である。今年度はさらに、Not以下の転写因子ネットワークを解析し、NotがFox遺伝子の非対称な発現を介して中胚葉と内胚葉を分離していることを明らかにした。Notが中胚葉形成に必要なコンピテンスファクターの発現を制御していることが分かった。Notが無いことによっておこる、内胚葉形成についても、複数のFox遺伝子とLim遺伝子によって形作られる転写因子カスケードを明らかにした。興味深いことに、Not遺伝子を含めたフィードバックループが中胚葉を形成する範囲を限定するのに重要である可能性が見えてきた。核について方向を決定する機構を解析し、複数の細胞内シグナル伝達経路のキナーゼが重要であることを見出した。現在、これらのキナーゼの局在や活性化の空間的パターンを解析中である。
|