1.今年度前半は主にAGT予想とその関連分野の研究を行った。これは代数幾何学と表現論、及び数理物理の話題を含む研究である。この予想はW代数と呼ばれる無限次元代数のVerma表現が、インスタントンのモジュライ空間の同変コホモロジー空間として幾何学的に実現されることを主張する。論文[2]では代数的なアプローチによりこの予想の最も易しい場合、つまりVirasoro代数のWhittakerベクトルのノルムと、階数2のインスタントン・モジュライ空間のNekrasov分配函数とが一致することの証明を完成させた。証明の手法は、両函数がZamolodchikov型の漸化式を満たすことを示すものである。 また、共著論文[1]ではAGT予想のK理論類似と、量子群の一種であるDing-lohara代数との関連について述べた。 具体的には、Ding-Iohara代数のFock表現のr次テンソル積表現が、階数rのインスタントン・モジュライ空間の同変K群上に実現されるという予想を提出し、部分的ながら確認を行った。 2.今年度後半ではBridgeland安定性を主な研究テーマとした。これは古典的な安定性の概念、つまり代数多様体上の連接層の安定性の、三角圏での類似である。Abel曲面及びK3曲面について、導来圏の安定性の構成と、large volume limitと呼ばれる条件下におけるBridgeland安定性と古典的安定性の一致、Foruier向井変換との関連について調べた。また、安定性の空間におけるwall-chamber構造と、安定な対象の数え上げに関する壁越えの解析も行っている。また安定な対象のモジュライ空間の射影性について論じた。 更に、Abel曲面の場合についてBrigeland安定性とForuier向井変換との関連を調べた。これは2009年度の研究で得られた、安定性を保つFourier向井変換達のなす算術群の記述(共著論文[3]の内容。今年度に論文誌に掲載決定となった)に関係する。 これらについて、3つのプレプリントを執筆した。
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