本研究の目的は、インドネシアのジャワ農村を事例とし、共同体規範や基礎的な経済選好(リスク回避度など)を考慮に入れた枠組みで人々の経済行動を捕らえなおし、隣人間でのインフォーマルな金融取引の成立メカニズムを明らかにし、効果的な小規模融資プログラムの方向を理論的・実証的に検討することを目的とする。 今年度は、最貧困層のリスク選好が、土地の貸借取引行動やネットワーク形成、相互扶助組織への参加に与える影響について焦点を当て、調査・分析を実施した。その結果、リスク選好が土地貸借行動に与える効果については、期待効用仮説よりもプロスペクト理論が農民のリスク選好をよく説明し、プロスペクト理論を前提とした場合に調査地の小作契約選択行動とリスクの関係が説明可能となることがわかった。また、リスク選好がネットワーク形成に与える影響については、最貧困層を対象とした聞き取り調査に基づいた分析により、最貧困層がおかれる状況は発展段階によって多様であるが、いずれの集落でも最貧困層は共同体内での相互扶助システム(現地語でarisanと呼ばれる貯蓄グループ)から借入ができること、リスク選好の影響は夫婦間で異なる効果があることなどが明らかとなった。 本研究で得られた成果は、新たな知見に基づく政策含意を提供しており、学術面のみならず開発の実践面にも貢献するものである。なお、研究代表者は、これらの成果を論文にまとめ国内外の学術雑誌への投稿や、学会発表を通じて公表した。
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