研究課題/領域番号 |
09J02308
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
大川原 徹 九州大学, 大学院・工学研究院, 特別研究員(DC1)
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キーワード | ポルフィセン / ポルフィリン異性体 / プロトン共役電子移動 / 結晶構造解析 / 人工光合成 / ヒドロキシ基 / 電子移動 / 光誘起電子移動 |
研究概要 |
第1年度、第2年度を通してルテニウムポルフィセンの合成と機能化を行い、さらに側鎖をヒドロキシル基で修飾したヒドロキシポルフィセンの合成を行った。第3年度はヒドロキシポルフィセンを用いた光誘起プロトン共役電子移動反応系を構築した。ヒドロキシポルフィセンは適当なプロトンと電子のアクセプターが存在すると、それらへ電子とプロトンを引き抜かれる、プロトン共役電子移動が起きると考えられる。また、ポルフィセンはポルフィリンよりも長波長に大きな吸収帯を有することから、従来のポルフィリンを用いた系よりも優れた光誘起電子移動の反応系を構築できることが期待される。電子、プロトンのアクセプターとしては天然の光合成でも用いられているキノンの誘導体であるデュロキノンを用いた。デュロキノン存在下でヒドロキシポルフィセンが吸収する可視光領域のレーザーを照射すると、励起3重項状態のヒドロキシポルフィセンとデュロキノンが反応していることが過渡吸収スペクトルによって確認された。また、光励起後、420nm付近に、デュロキノンのラジカル種に特徴的な吸収が新たに生成することが確認された。エタノール中におけるStern Volmerプロットより、電子移動反応速度定数は7.8×10^8[M^<-1>s^<-1>]である。重水素ラベル化したエタノール中では、ヒドロキシポルフィセンのOHがODへと変換され、電子移動反応速度定数は4.4×10^8[M^<-1>s^<-1>]に減少する、同位体効果を示した。これは、反応の律速段階に水素原子の移動を含んでいるということであり、光誘起プロトン共役電子移動が起きたことを示している。これらの結果は2012年のResearch on Chemical Intermediates誌に採録が決定されている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の目的であった、Zスキーム型光触媒系の構築には至らなかったものの、それに代わる新しい反応系として、ポルフィセンを用いた光誘起プロトン共役電子移動反応系を構築することに成功し、多くの学会、学術論文等で成果を発表することができた。これは、今後の人工光合成系の構築において重要な成果であると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
Zスキーム型光触媒系の構築のためには、ただ可視光吸収能を有する色素を組み合わせるだけでなく、それらの間の励起状態のエネルギーや寿命等を考える必要がある。ポルフィセンは、光吸収能、励起状態のエネルギー等は充分であったが、電子移動に必要な最適な条件を見出すには至らなかった。一方、その過程で、自然界の様々なプロセスにおいて重要な過程の一つである、光誘起プロトン共役電子移動はポルフィセンを用いて行うことができた。 今後は、一つの現象だけでなく、光合成のプロセスにおける様々な素過程を組み合わせることで効率的な人工光合成系を構築できると期待される。
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