昨年度は記憶の進化的側面について、多くの変数の中から2変数の相関を検出させる課題を用いて、記憶容量が相関の検出や利用に及ぼす影響について検討する実験を行った。その結果、小さな記憶容量を持つ人の特徴である単純な思考が相関の検出や利用において有利に働くことを示し、小さな記憶容量の適応的なメリットについて重要な示唆を得た。これは人間の記憶容量が選択圧を受けて適応的に進化してきた結果、現在のような小さな容量に納まっているということを示す上で非常に重要な知見であるといえる。 また、関連テーマとして錯誤相関についても研究を進めている。錯誤相関とは、実際には関係のない変数の間に関係性を見出してしまう現象のことである。相関を検出することは生物にとって適応的に重要なことであり、そういった相関を実際には存在しないところに誤って相関を見出してしまうことは適応的に大きな損失であると考えられる。それにもかかわらず、人間が多く場面において錯誤相関を生じてしまうということはそれ自体に何らかの適応的価値があることを示唆しており、進化心理学的に非常に重要なテーマであるといえる。錯誤相関については昨年度、相関に対する意識の有無や項目の連続性などが錯誤相関の生起に影響を及ぼすかといった観点から3つの実験を行った。その結果、相関に対する意識がなくても錯誤相関が生じること、項目の連続性は錯誤相関の生起とは関係がないことなどの貴重な示唆を得た。錯誤相関については来年度も引き続き様々な観点からそのメカニズム、生起要因について検討する予定である。
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