一昨年度に記憶の進化的側面について、多くの変数の中から2変数の相関を検出させる課題を用いて小さな記憶容量が相関の検出や利用において有利に働くことを示し、小さな記憶容量のメリットについて重要な示唆を得た。この成果について昨年度は論文を執筆し、日本認知心理学会発行の「認知心理学研究」に投稿した。 また、昨年度も一昨年度に続いて関連テーマとして錯誤相関について研究を進めた。錯誤相関とは、実際には関係のない変数の間に関係性を見出してしまう現象のことである。相関を検出することは人間をはじめとする生物にとって適応的に重要なことであり、そういった相関を実際には存在しないところに誤って相関を見出してしまうことは適応的に大きな損失であると考えられる。それにもかかわらず、人間が多く場面において錯誤相関を生じてしまうということはそれ自体に何らかの適応的価値があることを示唆しており、進化心理学的に非常に重要なテーマであるといえる。錯誤相関は対象となる変数の度数分布が歪んでいる時に生じることが知られている。錯誤相関については昨年度、主に度数分布が錯誤相関に及ぼす影響について検討し、貴重な示唆を得た。度数分布には変数ごとの度数分布を示す周辺分布と、複数の変数を組み合わせた度数分布である同時分布がある。本研究ではこれ1ら2つの度数分布の内どちらが錯誤相関が生起する上で重要な役割を果たしているのか実験によって検討した。2つの実験の結果、錯誤相関が生起するには周辺分布と同時分布双方の歪みが重要であることが示された。また、注意の向け方が錯誤相関の生起に及ぼす影響についても検討した。今年度も引き続き錯誤相関が生じるメカニズムについて検討していく予定である。
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