研究概要 |
本年度は、細胞内における局所的な亜鉛イオン濃度変化の検出を指向した種々の亜鉛蛍光プローブの開発を行った。特に、ローダミンまたはフルオレセインを基本とした亜鉛蛍光プローブに対し、適当な官能基を導入することで細胞膜へのプローブ分子の局在化を図った。得られた各プローブ分子について、亜鉛イオンに対する蛍光応答能および金属選択性を検討し、プローブ分子としての評価を総合的に行った。 まず亜鉛イオンに対する蛍光応答能及び金属選択性について検討するため、テトラメチルロサミン(TMR)及び3-O-メチルフルオレセイン(OMF)骨格に亜鉛配位部位を結合させたモデル化合物LTMR,LOMFを合成し、生理的条件下(50mM HEPES,pH 7.20)において種々の測定を行った。それぞれ、亜鉛イオンの添加に従って100倍程度の著しい蛍光増大が観測され、蛍光強度の変化から亜鉛イオンに対する結合解離定数K_dの値をそれぞれ算出した。また、亜鉛イオンに対して選択的な蛍光応答性を示したことから、これらの化合物は亜鉛蛍光プローブとして十分な機能を有していることがわかった。 次に、コレステロールによる細胞膜への局在化を達成するため、LTMRおよびLOMFのメチル基をコレステロール誘導体で置換したLRCholおよびLFCholを新規に合成した。これらの化合物の同定は、^1H-NMRおよびMALDI-TOF massにより行った。まず、亜鉛イオンに対する蛍光応答について検討したところ、それぞれのモデル化合物で得られた結果と同様の性質を示し、強い蛍光増大が確認された。また亜鉛イオンに対する高い選択性も維持していたことから、蛍光プローブとしての物性に対してコレステロール部位はほとんど影響を与えないことがわかった。これらの結果からLRCholおよびLFCholは、細胞膜近傍の局所的な濃度変化をイメージングできる有用なツール分子として機能することが期待できる。
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