研究概要 |
昨年度の星間塵表面上における二酸化炭素(CO_2)生成実験で,CO_2以外の新たな化合物,炭酸(H_2CO_3)が生成したので,その生成過程や条件等を詳細に議論した.H_2CO_3はこれまでに宇宙空間で発見された例はない.しかし,過去の研究で,H_2CO_3は星間塵氷の主成分である水とCO_2混合氷への紫外線・宇宙線照射によって生成することがわかっていた.本研究では初めてH_2CO_3がCOを主原料として生成されることを明らかにした.本実験条件下,その生成量は最大で同じ実験で生成するCO_2の7割程度を占めた.本結果の重要な点は,H_2CO_3生成が紫外線等のエネルギー源を用いないでなされたことである.したがって本結果は,光の届きにくい高密度分子雲内部におけるH_2CO_3の存在を期待させる。 極低温固体表面におけるメチルアミン(CH_3NH_2)の水素交換反応を検証した.CH_3NH_2と100Kに冷却されたD原子を10-30KのAl基板表面で反応させると,重水素置換反応が起こり,生成物としてメチルアミンの重水素置換体CD_3ND_2が確認された.またCD_3ND_2とH原子(100K)を同様に反応させると,CH_3NH_2がD-H交換によって生成した.さらにCH_3OHとDの反応では,メチル基のみH-D交換が起きたのに対し,CH_3NH_2とDの反応では,メチル基,アミノ基ともにH-D交換がおきた.それらの反応速度を比較すると,CH_3NH_2+Dの反応はCD_3ND_2+Hよりも早く,反応基板温度により異なるが,最大で5倍程度早かった.しかし,分子雲でのD/H原子比がおよそ0.1程度であるとすると,D体化のほうが5倍早いとしても,H-D(D-H)交換反応によって,メチルアミンは重水素濃縮されにくいということになる.これまでの天文観測で,重水素置換されたメチルアミンは発見されていないが,本結果はこれときわめて調和的である.
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