研究概要 |
電磁波吸収体は,通信障害など電磁波を扱う環境で生じる様々な問題を解決する重要な役割を担っている。現在求められている電磁波吸収体は数GHz~数十GHzの高周波で使用可能であり,周波数の変化に対応できるものである。また,吸収体は大面積で使用されるため低コスト化や量産化可能であることも考慮しなければならない。これらの要件を満たす吸収体を作製するため,吸収特性を決定する複素比透磁率と複素比誘電率を人工的に制御でき,しかも汎用材料のみで構成可能なメタマテリアルを電磁波吸収体に応用することを研究の目的とした。現在のメタマテリアルは導体などの周期配列により実現されるため,量産化に適さず実用化は困難である。そこで,作製が容易なアルミニウム粒子を樹脂に分散させた複合体でメタマテリアルを実現し,電磁波吸収体に応用することを試みた。 作製した複合体の吸収特性を評価した結果,目標とする数十GHzで電磁波のエネルギーを99%以上吸収でき,このときの吸収体の厚さも2~3mm程度で市販されている吸収体と同程度の厚さになることを明らかにした。また,この複合体の複素比透磁率の値を理論計算で求めた結果,実測値とおおむね一致し,実測値との合致が極めて優れたシンプルな理論計算方法を確立できた。この結果より,アルミニウム粒子の混合量,粒径,粒径分布を調整することで将来使用される高周波領域の所望の周波数で動作する吸収体が設計できることを明らかにした。さらに,この吸収体の材料はアルミニウム粒子と樹脂のみで構成されているため,低コスト化や量産化,軽量化,環境負荷の低減を同時に実現できることも大きなメリットである。本研究の成果は,今後の吸収体に求められる要件をほぼ満たしており,将来求められる実用的な電磁波吸収体を容易に作製できるという大きな重要性がある。
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