研究概要 |
本研究は,ハードディスクドライブの1Tbit/inch^2を超える高記録密度化を実現するために,強磁性原子数個から構成される1nm級の強磁性ナノ接点を有する極薄の酸化物層(NOL:Nano-Oxide-Layer)を作製することで,ナノ接点中で発現するナノ狭窄磁壁型MR効果を用いた新規な次世代磁気読み取りヘッドの開発を行う。更に本研究では,高MR変化率を得るために,強磁性体にハーフメタル性フルホイスラー合金(Co_2FeSi:CFS)を用いる. 2009年度は,CFSの単層膜の研究を主に行った.CFSが高いスピン分極率を有するためにはL2_1構造という高規則構造となる必要がある.これまでホイスラー合金は単結晶基板上でフルエピタキシー成長させることでL2_1構造が得られたという報告はされてきた.しかし、実際の磁気ヘッドでは単結晶基板を用いることができない.そこで,本研究では非単結晶の熱酸化Si基板を用いて実験を行った.多くの下地層を試した中,Ta/Ruという下地層を積層することで,規則度63%のCFSを作製することに成功した.これはhcp構造であるRuの(001)とCFSの(220)との格子不整合が3.9%と非常に整合が良いため,高規則化することが可能となったと考えられる. また上記のCFSに対し,CrOx-NOLの作製を試みた.得られたMR変化率はわずか1.5%と,高規則なCFSを用いたにも関わらず低MR変化率となってしまった.断面観察からナノ接点は観察されたものの,組成分析よりCFS中のSiの多くが酸化物となっていることが確認された.これは,ナノ接点を構成する強磁性体が,Siが抜けてしまったCFS,すなわちフルホイスラー合金ではない低スピン分極率の強磁性体となってしまったためMR変化率が低迷したと考えられる.今後は,CFSが酸化しないNOL作製プロセスを考案する必要がある.
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