研究課題
私達はアスベスト誘発発癌機構の解明のために、繊維状物質一般の発癌機構を検討してきた。その結果、新素材として注目を集めている多層カーボンナノチューブの発癌機構の一旦を解明する事が出来た。アスベストを中心に積み重ねられてきた繊維発癌の知見によると、マクロファージによる慢性炎症と繊維による中皮細胞傷害が中皮腫形成に重要であると考えられている。多層カーボンナノチューブは、その細長い形状と高い化学的安定性のためにアスベストと同様の毒性・発癌性をもたらすのではないかと危惧されていたが、私達は、多層カーボンナノチューブが直径依存性に中皮細胞の膜を傷害し、中皮腫リスクを決定している事を見出した。本研究結果は、繊維発癌における機構解明と多層カーボンナノチューブの産業的応用・環境リスク評価に対して大きな意味を持つ。従って、期待通りの研究の進展があったと考える。また、私達は前年度から継続してアスベスト誘発発癌の予防法確立について検討している。アスベストとラット腹腔内に投与し、その一カ月後から潟血や鉄キレート剤投与を行う事により、鉄負荷を軽減し、発癌率の低下が見られないか観察中である。本実験は未だ遂行中であるが、鉄キレート剤投与によって発癌率の低下が見られつつある。この実験の補佐的なデータとして、アスベスト溶血を起こす事、またヘモグロビンやDNAを表面上に吸着することで局所鉄の増大並びにDNA傷害を起こす事を明らかにしてきた。従ってアスベストは自身に含まれる鉄だけでなく、生体内の鉄を利用する事によっても局所的な発癌リスクを増大させている可能性がある事が示唆された。この結果は平成23年の夏にはまとめ、論文を投稿する予定である。発癌率低下の程度については未だ分からないが、本研究結果はアスベストに既に曝露されている方々が中皮腫発生のリスクを抑えられる可能性を示唆している。
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Free Radical Research
巻: 45 ページ: 211-220
Archives of Biochemistry and Biophysics
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