研究課題
多層カーボンナノチューブ(以下、NT)はアスベスト繊維と類似の物理化学的性質を持っため、中皮腫を引き起こす可能性について社会的懸念がある。今回、NTの毒性・発がん性を決める因子を評価するため、5種類のNTと3種類のアスベストを用いて中皮細胞に投与したところ、アスベストは細胞に効率良く取り込まれたが、NTは殆ど取り込まれなかった。NTによる中皮細胞毒性は直径と逆相関であり、さらに透過型電子顕微鏡を用いて観察すると細いNT(~50nm)の方が太いNT(~150nm)よりも中皮細胞の細胞膜や核を貫通し易い事が明らかとなった。一方、アスベストの直径はどのNTよりも大きかったが、膜構造に囲まれた状態で細胞内に存在していた。NTは膜構造に囲まれておらず、NTとアスベストは異なる機構で細胞に入る事が示唆された。NTをラットの腹腔内に投与すると、細いNTは太いNTと比べて、強い炎症を惹起し、中皮腫発生も早く、高率であった。NTをマクロファージに投与し、毒性やサイトカイン産生能を調べたが、直径の異なるNT間に差異は認められなかった。従って、炎症惹起性や発がん性について、中皮細胞傷害性が強く関与している事が示唆された。直径が小さく、かつ凝集塊をつくるようなNTは細胞に入らず、発がん性も最も低かったことから、中皮細胞傷害には直径が小さい事と剛性・直線性が高いことが重要であることと考えられた。以上の知見は、繊維状物質の発がん機構解明に寄与することが大きいだけでなく、社会的意義の高いものであると考えている。また、アスベストの発がん予防についても一定の成果を得られており、現在論文投稿準備中である。
1: 当初の計画以上に進展している
アスベスト繊維だけでなく、多層カーボンナノチューブなどの繊維状物質全般の発がん機構の一端を明らかにする事が出来、さらに繊維ごとの差を明確化することによって安全なナノ物質を作るための指針を提案することが出来たため。
アスベスト繊維誘発発がんモデルを用いたがん予防実験の結果を論文として報告する予定である。
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Cancer science
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