研究概要 |
本研究においては会計監査人をその対象とし,監査人の交代に着目した。まず,監査人の変遷に係るデータベースの精緻化を行った。当該データベースは,全上場会社を対象とした1990年度以降の監査人の交代について取り扱ったものである。かかるデータ収集および精緻化の作業によって,実証研究の結果への信頼性が高まったと考えられる。 次に,本年度においては,このデータベースを用いて交代企業の特性について検討した。企業の特性については,具体的には監査人の交代前後における自己資本当期純利益率(以下,ROE)および総資産事業利益率(以下,ROA),ならびに裁量的会計発生高の推移を追うことで,監査人の交代という事象が被監査企業に与える影響について調査した上で,その変動要因を探求した。その結果,監査人交代後に,交代企業において監査人による保守主義がみられることが明らかとなった。また,本研究においては,監査人交代後という観点から,後任監査人が大手監査法人であるかその他の監査人であるかという2分類を行い,後任監査人が大手監査法人である場合にのみ交代企業が監査人交代後に保守的な会計数値を計上するということを示す証拠を得るに至った。それだけでなく,実態として交代企業の業績が交代後に悪化していることを示唆する結果も確認できた。これらの結果により,監査人の交代が交代企業の信頼の失墜をもたらす可能性があるという点が明らかとなった。 本研究の貢献としては,監査人の交代に係る経験的研究として,監査論における実証研究の積み上げの一助となり得るという点と,監査人の交代の義務化を含む制度設計への貢献という2点が挙げられる。なお,本研究の内容については「会計監査人の交代に関する一考察-後任監査人の保守的姿勢に係る実証研究-」と題する原稿を書き上げており,現在,かかる原稿の細部の検討を行っているところである。
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