研究課題
木星大気ダイナミクスの解明には、詳細な大気鉛直構造の理解がその手掛かりとなる。昨年度までに開発した「放射伝達モデルと多変数パラメータを制約するフィッティング手法」の効率化を図り、2008年春に西はりま天文台・なゆた望遠鏡を利用して取得した「反射太陽光の多波長分光撮像観測データ」を再解析した。これにより、木星雲層上部構造の顕著な特徴である「帯」と「縞」の違いが、雲頂高度の差ではなく雲層の光学的特性(一次散乱アルベド)に起因することを見出した。更なる研究深化のため、以下に述べる2つの課題に取り組んだ。1.上記の放射伝達計算で必須となる雲粒子の光学散乱特性の精度向上のため、広い太陽位相角で高精度データを提供できるカッシーニ探査機の木星フライバイ観測データ(2000-2001年)の解析を進めた。これにより、従来利用されてきたパイオニア探査機データに基づく散乱位相関数に比べ、後方散乱が弱いという結果が得られた。さらに詳しく調べるため、現在ミー散乱理論を木星雲に適用したモデル計算を行っている。2.成層圏及び、雲層下部の鉛直構造を制約するため、それぞれ、メタンによる光吸収の強い2ミクロン帯と「大気の窓」である透過率の高い5ミクロン帯を用いた観測をNASA/IRTF赤外望遠鏡にて行った。現在解析途上ではあるが、成層圏では、ヘイズの水平分布が南北の極域で異なることは知られていたが、それだけではなく、鉛直構造にも非対称性を示唆する結果が得られた。一方対流圏下部では経度方向にも雲分布が不均一であることが確認された。しかし、5ミクロン帯は地球大気による吸収が想像以上に厳しく、マウナケア山頂といえども、分光観測には不適であることが分かった。今年度得られた研究成果は、国内外の学会において口頭・ポスター発表を行った。現在今年度までに得られた結果を論文にまとめる準備を進めている。
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第24回大気圏シンポジウム・集録
第10回惑星圏研究会・集録
ページ: 147-150
Bulletin of the American Astronomical Society Vol.41, No.3
ページ: 1010-1011