本研究は、地上望遠鏡・探査機データに基づいた木星雲層鉛直構造及び雲物理の理解を目的としており、本年度は下記の研究を主に行った。1.液晶チューナブルフィルターを用いた可視光観測データによる雲層上部構造の研究:昨年度は、2008年5月に得られた多波長分光撮像観測データとこれを解釈する放射伝達モデルを用いて雲層上部構造の顕著な特徴である帯(Zone)と縞(Belt)の違いは、雲頂高度の差にその原因があるのではなく、雲層の光学的特性(一次散乱アルベド)に起因することを見出した。本年度も引き続き、2010年10月、2011年1月に西はりま天文台・なゆた望遠鏡を用いて観測を行い、雲層上部構造の経年変化を調べている。特に2010年には南赤道縞(SEB)の淡化現象が起こっており、水平・鉛直方向に大規模な擾乱があったと考えられている。現在解析途上であるが、定性的にはこの淡化現象の原因は雲頂高度の上昇・下降ではなく、雲層の光学的特性に起因すると考えている。2.カッシーニ探査機データを用いた雲粒子の散乱特性の研究:雲粒子の散乱特性を調べるため、広い太陽位相角で取得されたカッシーニ探査機の木星フライバイ観測データ(2000-2001年)の解析を行っている。本データは、同じく広い太陽位相角で観測を行ったパイオニア探査機のデータよりも多波長・高精度のデータであり、より詳細な雲粒子の散乱特性を理解することができる。本年度はデータ校正について再度NASAのデータ提供者と議論を行い、Zoneについて、ミー散乱理論を木星雲に適用した放射伝達モデル計算を進めている。次年度はZoneとBeltの雲の散乱特性の比較、及び同じガス惑星である土星についても研究を進める予定である。本年度得られた研究成果は、国内外の学会において口頭・ポスター発表を行った。現在本年度までに得られた結果を論文にまとめる準備を進めている。
|