研究課題
本研究では、日本語の音読過程を表す認知モデルを臨床的及び計算論的に検証すること、発達性読み書き障害の障害仮説の妥当性を臨床的及び計算論的に検討することを目的とした。当該年度では、「年長児から小学校6年生までの典型発達児及び小学校5・6年生の発達性読み書き障害児の仮名音読における文字長と語彙性の交互作用」に関する研究論文が、国際学会誌(Brain and Development)に受理された。この研究では、日本で初めて、文字長と語彙性の交互作用というパラメータを用いて、音読における流暢性の発達と音読速度障害の障害メカニズムを解明した。典型発達児では1年生から2年生にかけて語彙的な処理を充分に行うことが可能になるだけではなく、非語彙的な処理速度が顕著に速くなることが示された。また、対象とした発達性読み書き障害児では、語彙的な処理の障害と文字と音の対応関係の弱さの双方によって、音読速度障害が生じていると思われた。これらの結果全ては、現在アルファベット語圏の音読モデルとして強力なモデルの一つであるDRCモデルを用いて説明することができる。しかし、このモデルは、英語、フランス語、ドイツ語などのアルファベット語の文字体系に特化しており、日本語の読みを説明できるモデルかどうかは不明であった。そこで、日本語の音読処理過程としてもDRCモデルを適用可能どうかを臨床的に検討したところ、英語のDRCモデルでの基本的な処理(語彙経路と非語彙経路の処理)が日本語の読みでも行われていることが明らかとなった。しかし、本研究結果より、英語のDRCモデルとの相違点も明らかとなった。その相違点とは、仮名の非語彙経路及び反応バッファーの音韻表現が音素ではなくモーラであること、漢字の非語彙処理が程度差のある文字と音の対応関係の典型性に基づいて生じることであった。これらの相違点を考慮して、英語のDRCモデルの構成要素を一部、修正する必要があるのではないかと思われた。
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音声言語医学
巻: 53 ページ: 8-19
Brain & Development
巻: (in press)
10.1016/j.braindev.2011.09.005