ポストモダン期の写真を巡る言説の中で、とりわけフランスの写真家アンリ・カルティエ=ブレッソンに関する言説の重要性が明らかになったため、本年度は当初の計画のうち、とりわけニューヨークにおけるカルティエ=ブレッソン受容に重点を置いて研究を進め、1930年代にまで遡って、カルティエ=ブレッソンという写真家がどのように語られてきたのか、という点を究明するため、本年度は仏語圏、英語圏に跨った資料の発掘と、分析を進めた。その結果、1930年代のニューヨークで無名の写真家カルティエ=ブレッソンが世に出たのには、当時のアメリカ写真の動向、アメリカの美術・美術館学を担う新しい世代として登場したハーヴァードのグループ、そして写真での動向に先んじて文学・ジャーナリズムの分野に登場したドキュメンタリー的記述、といった複層的な背景があったことが明らかになってきた。 またその成果発表の一貫として、2010年8月に韓国ソウルで行われる、国際比較文学会(ICLA)世界大会での口頭研究発表に英語で応募し、査読に通過、8月17日に研究発表を行う予定である。具体的な発表予定内容としては、1947年のニューヨーク近代美術館における展覧会とそのカタログ、そしてその改訂版に付けられた、リンカン・カースティンとボウモント・ニューホールのテクストの比較が中心になる。 本年度は論文発表、および研究発表のための資料作成に関しても進展があり、複写用スタンドを自作して、全国各地の大学図書館から取り寄せた図版資料の複写を行った。 2009年6月には日本比較文学会全国大会(大阪大学)に参加し、他の研究者との交流、情報交換に努めた。
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