近年の医療の発達は人の寿命を飛躍的に延ばした。アルツハイマー病など中枢神経系の疾患にかかる人の割合も年々増加している。アルツハイマー病は、神経細胞が変性してしまうことで情報信号のやり取りが阻害されることで起こっている。このような神経変性の発生メカニズムや信号の阻害の機構についてはさまざまな仮説が出ているが、はっきりと定まってはいない。本研究の目的は、未だ明らかになっていない領域が多い脳の機能を、神経細胞ネットワーク間における情報信号の伝達機構を測定することで神経細胞の構造が持つ機能を根本から解明することである。神経細胞を形成するタンパク質分子の構造が持つ機能を、神経細胞分子と他のタンパク質との作用とそれによる信号伝達への影響を測定し解析することで特定できれば、アルツハイマー病などの神経編成疾患の病理解明及び、これらの疾患に対する根本的な治療法の確立に繋がる。これらを実現するため、本研究では、初代培養細胞を用いて状態の安定したin vitro測定素子を開発し解析を行う。 本研究ではまず、複数の測定点を持つプレーナーパッチクランプ素子の開発をおこなった。所属研究室では、培養型のプレーナーパッチクランプ素子を開発しており、これを応用する。複数の神経細胞の間の信号伝達を計測するために新しいプレーナーパッチクランプ素子は、同一基板上に4つの測定点を持つ。この測定点は、素子中央からそれぞれ等間隔に置き、それぞれの測定電極が干渉しない距離をとって密に配置している。この測定素子上に神経細胞を培養しネットワークを形成させ、各測定点からチャネル電流を計測し、信号伝達を解析する。また、リソグラフィー技術により作製したスタンプを用いて、細胞外基質を基板上にパターニングし任意の細胞ネットワークパターンを形成させる。これらを用いて神経初代培養細胞にイオンチャンネルを導入し光刺激による応答を測定する。
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