京都大学生態学研究センターに保管されている琵琶湖産ハゼ科魚類イサザの長期アーカイブ標本を用いた胃内容分析を実施し、個体ごとに餌利用がどのように異なるのかを詳細に調べた。その結果、大きな個体は主にヨコエビを利用し、小さな個体は動物プランクトンを利用するという食性ニッチのサイズ依存性を明らかにした。また、このようなサイズ依存性の度合いは安定ではなく、顕著な時間変動があることを発見した。これは魚類個体群の餌利用や成長パタンを理解する上で貴重な知見である。また、琵琶湖における表層-底層カップリングの主体をなすイサザの採餌行動を解明したと言う点で、本データは当該研究課題に特に重要である。加えて、表水層と底水層にある二つの食物連鎖が魚類個体群によって結合される状況を想定した数理モデルの構築と修正を昨年度に引き続いて行った。数理モデルを解析した結果、局所食物網の群集構造や魚類の栄養段階、相互作用の非線形性、代替餌利用の利用様式などの諸要因の影響によって、生態系全体の状態は二者択一的なシナリオをもって遷移する可能性が予測された。これは、非生物学的な環境撹乱だけではなく、種の絶滅や侵入、生息地の縮小や分断化といった生態学的な環境撹乱によって、生態系の状態がある状態から別の状態へと突然にシフトする可能性を意味する。一連の結果から、魚類のサイズ依存的な食性ニッチを介して、湖沼の表水層と底水層の食物網は密接にリンクしており、一方の食物網における撹乱が他方の群集構造に大きく影響することが示唆された。
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