研究代表者が所属する研究室では、神経ペプチドPACAPの遺伝子欠損(KO)マウスにおける日内行動リズム調節障害の分子基盤研究から、本行動制御へのPGD_2のII型受容体(CRTH2)の関与を示し、脳内CRTH2の生理機能をはじめて明らかにした。本研究では中枢神経系におけるCRTH2の機能解明を目的とし、本年度は、以下の結果を得た。 1)CRTH2作動薬(15d-PGJ_2、DK-PGD_2)の脳室内投与により自発運動量が減少することを見出したが、DK-PGD_2の作用は溶媒中のDMSO濃度が10%以上の場合に認められることが示された。以上、DK-PGD_2による自発運動量抑制作用は、(DMSOにより影響を受ける)他のシグナル系と協調した結果である可能性が考えられた。 2)SHIRPAプロトコルに基づく網羅的行動解析の結果、CRTH2-KOマウスの自発運動活性、運動・感覚機能などは野生型マウスと同様であることが示された。また、本マウスを用いて強制水泳試験を行った結果、無動時間が減少、swimming時間が増加しており、CRTH2とうつ様行動の発現との関連が示唆された。 3)CRTH2-KOマウスを用いてlipopolysaccharide(LPS)誘発sickness behaviorの発現を解析した結果、本マウスではLPS誘発の自発運動量、摂食量の減少は保持されていたが、他のマウスとの社会的相互作用の減少が消失していた。さらに、本マウスではLPSで誘発される新奇物体への探索行動の減少も消失していたことから、新奇なモノに対する探索行動の制御におけるCRTH2の重要性が示された。 4)神経分化のモデルであるPC12細胞において、15d-PGJ_2がCRTH2を介してNGF誘発のp38 MAPKのリン酸化、神経突起伸展を増強することを示し、神経系細胞におけるCRTH2の機能的発現を実証した。
|