平成21年度に実施した研究の成果は以下の3つである。 1、リスク社会のモラル・パニックについて考察した。モラル・パニックとは、犯罪が急速に社会問題化し、犯罪不安が増大する現象のことを言うが、1990年代後半からは少年犯罪をめぐってモラル・パニックが生じた。少年犯罪の場合、犯罪不安は、教師や親といった加害少年の周囲の人々が少年の教育責任を問われるリスクへの不安として増大した側面が大きい。そこで、犯罪不安を高める要因となるリスクを危険性、予測不能性、自己責任という三要素によって把握することで、リスク社会と呼ばれる現代社会にモラル・パニックを位置づけた。 2、リスク社会の排除と医療との関連について考察した。ミシェル・フーコーの議論を踏まえれば、医療的介入は、事前的な予防を目的とするリスクの医療と、事後的な治療を目的とする規律の医療との二つに分類できる。そして、この二つの医療的介入について分析することを通じて、排除のありようの変化を把握することが可能となる。 3、暴力的なメディアやゲームなどの遊びと少年犯罪についての理論的な考察を行った。少年犯罪のリスク要因として、犯罪や暴力を扱う遊びの影響がしばしば指摘される。そこで、デュルケムが犯罪を聖・俗の問題として議論したのを踏まえ、宗教社会学における聖・俗・遊の三項図式を用いることで、犯罪や暴力を扱う遊びに対する社会的な嫌悪のメカニズムについての分析を可能とする理論を構築した。
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