半導体量子ドットは、キャリアをナノメートル領域に3次元的に閉じ込めることができ、巨大な光非線形性を利用して種々の光デバイスの性能向上が期待できる。本研究では、GaAs基板上InAs自己組織化量子ドットを用いた光デバイスへの応用を目指し、中間層にGaNAs材料を用いた歪み補償法による量子ドットの高密度化(多重積層化)技術の開発を行っている。しかし、GaNAs結晶は窒素が局在化しやすく均質な結晶の作製が困難な材料である。そこで、従来のAs_4分子線に替え、As_2分子線を用いることによって結晶品質が改善されることを明らかにし、また異なるAs分子線種がGaNAs上InAs量子ドットに与える影響について調べたところ、その形成過程に大きな違いがあることを明らかにしてきた。 本年度はさらに、それぞれのAs分子線種を用いて中間層膜厚を変えた積層構造を作製し、量子ドットの積層方向の配列性を評価した。上下層の量子ドットがペアになっている割合(量子ドット対の形成割合)の中間層膜厚依存性を調べたところ、中間層膜厚30nm以上の領域で違いが見られた。これは量子ドットの形成過程は歪み場の伝搬のみでなく、表面構造にも大きく影響されやすいためである。As_2分子線下ではGaNAs結晶表面に高密度なステップが形成されることが分かっている。この高密度の核形成が歪み場の伝搬によるペアリング効果より影響が大きくなるためと考えられる。 今後はこれまでに最適化した成長条件を用いて歪み補償型多重積層量子ドット構造を作製し、デバイス化および光学評価を行う予定である。
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