昨年度までに解析したネフロネクチンの歯胚発生過程における発現パターン、歯胚器官培養系における機能解析の結果をもとに、本年度は主にネフロネクチンの基底膜分子として歯胚発生に与える影響について解析を行った。これまでの研究で、ネフロネクチンはRGD配列を有しており、インテグリンα8β1と結合することが報告されている。そこで、免疫染色法、リアルタイムPCR法を用いて歯胚発生におけるインテグリンα8の局在を検討した。その結果、歯胚発生初期である蕾状期から帽状期にかけて発現が増強し、胎生15.5日齢歯胚をピークに減少していくことがわかった。また、マウス臼歯歯胚発生の各ステージにおける免疫染色により、間葉細胞に主に発現することが確認された。以上から、インテグリンα8は間葉系細胞に発現し、主に歯胚発生の初期において発現することが確認された。実際、胎生14.5日齢歯胚を採取し、ネフロネクチンsiRNA存在下で器官培養を行うと、歯胚の形成が抑制される知見を得ており、歯原性上皮細胞の分化時期への影響だけでなく、歯胚形成過程においても重要な役割を持っている可能性が考えられる。また、ネフロネクチンは上皮細胞より分泌され基底膜に局在することから上皮間葉相互作用により歯胚の形成を制御している可能性が示唆された。 本研究期間を通して、ネフロネクチンは歯の発生初期において基底膜に発現し、上皮-間葉相互作用によって細胞増殖を引き起こし、歯胚の形成に重要な役割を担っている可能性が示唆された。また、エナメル芽細胞分化期においては、その発現が基底膜の消失と共に消えることで、エナメル芽細胞の分化を引き起こすことが示唆された。これらの知見は歯の発生機序の一端の解明にとどまらず、将来的な歯の再生技術に寄与するものと考えられる。
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