ヨウジウオ科魚類において、卵巣構造・卵生産様式が配偶システムを決める重大な系統的制約となっていることが示唆されている。このことを検証するため、卵巣構造・卵生産様式および配偶システムのヨウジウオ科内における変異を網羅的に調査し、分子系統樹との比較から各形質の進化過程を明らかにすることが本研究の目的である。本年度は、スウェーデン王国西部沿岸のGullmar fjordにて、複婚のヨウジウオ科魚類2種Syngnathus typhleとNerophis ophidionの水槽飼育実験を行い、卵巣構造と卵生産様式を調査した。S.typhleは1列の生殖隆起からなる卵巣構造をしており、非同調的で連続的な卵生産を行っていると推定された。卵巣内には卵巣腔に排卵された成熟卵が、産卵直後からすでに存在していた。一方、N.ophidionは2列の生殖隆起からなる卵巣を持ち、群同調的で不連続な卵生産を行っていた。産卵直後の卵巣内には成熟卵はなく、産卵後4日目に初めて排卵が確認された。本種の卵生産様式は、排卵後にも新たな卵成熟が進行するという点で、同じく群同調型の卵生産様式を示す一夫一妻のCorythoichthys属、Hippocampus属とは異なる。本研究成果は、卵巣構造と卵生産様式に対応関係があるという仮説を支持しており、卵生産様式により規定される産卵の周期性と一腹卵量の時間変化パターンの違いが、配偶システムの種間変異を生み出す要因となっていることを示唆している。また本年度は、同断にて他に3種のヨウジウオ科魚類を採取したほか、日本国内3か所で潜水調査を行い、ヨウジウオ科魚類6種、ヨウジウオ亜目魚類2種の卵巣試料と分子系統解析のためのDNA試料を得た。これらに加えて、高知大学理学部海洋生物学研究室より供試された、ヨウジウオ科魚類4種、ヨウジウオ亜目魚類2種の卵巣を用いて、卵巣構造と卵生産様式の解析を進めている。
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