これまでの栄養疫学研究では、生活習慣病をはじめとする特定疾患との関連について、"単一"の栄養素、食品・食品群レベルに注目したものがほとんどであり、摂取する食品の傾向を総合的にとらえた評価手法は極めて少ない。そこで、本研究では日本人における習慣的な食品の摂取傾向を総合的にとらえるための評価手法として食品摂取パターン(food-based dietary pattern)に着目した。本研究の初年度は、食品摂取パターン解析の方法論を理論的に構築するために、食事調査法のなかでも特に大規模疫学研究で汎用される質問紙法に焦点をあて、質問紙を用いた食事調査から抽出される食品摂取パターンの妥当性を検証することを目的とした。 はじめに、食品摂取パターンの解析プログラムを確立するために、Medline(PubMed)の掲載誌を対象にdietary patternに関する国内外の研究成果を系統的・網羅的に収集し、評価手法を確立するためのプロセスを整理した。つづいて、全国3地域(大阪、長野、鳥取)の31-76歳の健康な夫婦(男女各92名)から協力を得て収集した4季節4日間の合計16日間の秤量式食事記録と4季節で4回実施した自記式食事歴法質問票(Self-administered diet history questionnaire ; DHQ)による食物摂取に関する既存データベースを用いて、DHQから抽出される食品摂取パターンの妥当性を検討した。まず、DHQに掲載されている145食品と16日間食事記録に記載されていた1259食品を、各食品の栄養成分ならびに調理における使用状況等を考慮しながら33食品群に分類し、因子分析に投入した。そして、DHQ1回目ならびに16日間食事記録から食品摂取パターンを抽出後、各食品摂取パターンの因子スコアの相関係数を用いて妥当性を検討した。女性では野菜、果物、魚介類、海藻類、きのこ、大豆製品からなる「健康型」、油脂類、肉加工品、卵からなる「欧米型」、そして、ご飯と味噌汁からなる「昔の日本型」の3つの食品摂取パターンが、男性では野菜、果物、海藻、乳類、大豆製品からなる「健康型」と油脂類、肉・肉加工品からなる「欧米型」の2つの食品摂取パターンが両食事調査法から抽出された。そして、DHQ1回目と16日間食事記録の因子スコアのピアソン相関係数は、女性の「健康型」は0.57、「欧米型」は0.36、そして「昔の日本型」は0.44であり、男性の「健康型」は0.62、「欧米型」は0.56であった。 以上の結果から、これまでに報告されている4つの欧米の先行研究とほぼ匹敵する結果が得られ、DHQから妥当な食品摂取パターンを抽出することが可能であるということを科学的に示すことができた(研究代表者が食品摂取パターンの解析プログラムの作成、統計学的解析および原稿執筆を行い、論文として発表)。
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