LHC-ALICE実験における低い横運動量領域の光子測定は、量子色力学の非摂動論的領域を理解する上で非常に重要である。私は今年度、重心系エネルギー900GeV及び7TeVの陽子-陽子衝突ににおいて、横運動領域が高い場合と低い場合に事象を分け、それぞれの場合について荷電粒子における累積的粒子相関を測定した。これは、衝突の運動量移行が小さく、量子色力学の摂動計算が破綻する運動量領域での情報を得ることが出来るという点で、本研究課題である低い横運動量領域での光子測定の参照データと成り得る。また、粒子間の角度相関を見ることから、陽子の形状に起因した衝突パラメーターの違いを事象毎に観測できるのではないかという期待があった。今回の測定では、十分な統計が得られずこのような仮説を裏付けるような精度を達成することは出来なかったが、 低い横運動領域での荷電粒子の振る舞いを良く理解することができ、本研究課題である低い横運動量領域での光子測定に重要な寄与をすることが出来た。 更に、筑波大学で推進するDiJetカロリメーターの検出器シミュレーションの作成に昨年度末から引き続き取り組んだ。検出器位置の示す描画ツールを整備する等、ユーザインタフェースの拡充に努めた。このカロリメーターのシミュレーションは、ALICE遷移放射検出器(TRD)と組み合わせた電子識別向上のテストに活用した。また、ジェット内で相関を持つ電子対の影響を正しく見積もるために、従来設置されているALICE電磁カロリメーター(EMCAL)との組み合わせることでより系統誤差の少ない測定が出来ると期待される。
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