研究概要 |
希土類化合物では,4f電子が持つ多極子と伝導電子の混成により,多極子秩序や,重い電子状態,近藤効果など多彩な物性を示すため,近年精力的に研究されている。特に非クラマースΓ_3二重項基底を持つ系では,電気四極子O_u,O_vと磁気八極子T_<xyz>は持つが,磁気双極子を持たないために低温で高次多極子のみに由来する特異な物性を示す。Γ_3基底をもつPrMg_3は,50mKの極低温でも相転移を示さず,基底状態の解明が課題となっている。新潟大学およびドレスデン強磁場研究所において,希釈冷凍機および超伝導磁石を用いて超音波実験を進めた。その結果,200mK付近で超音波の周波数に依存する超音波吸収を世界で初めて観測した。これは,対称性を破る四極子転移や伝導電子で遮蔽された"四極子近藤効果"のシナリオと異なる電子-格子結合の散逸量子系が出現している可能性があり,優れた成果が得られた。さらに鉄砒素系超伝導体Ba(Fe_<0.9>Co_<0.1>)_2As_2の四極子効果と超伝導の起源を明らかにするために,新潟大学の^3He冷凍機と10T超伝導磁石を用いて超音波実験を進めた。横波弾性定数C_<66>にのみ室温から超伝導転移温度23Kまで約30%のキュリー的な低温ソフト化を観測した。これは,超伝導の出現にyz型の対称性をもつ軌道と結合する電気四極子が重要な役割を果たしていることを示す結果である。また,C_<66>のソフト化は10Tまでほとんど磁場依存性を示さなかった。そこでドレスデン強磁場研究所において,60Tパルス磁石を用いた超音波実験を行った。その結果,常磁性相では60Tの磁場を印加してもほとんどC_<66>のソフト化は回復せず,極めて磁場に対して強固な超伝導相と軌道自由度の関連を明らかにした。
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