研究課題
本年度の研究は、より定量的かつ信頼性の高い温度分布の解析を行った。前年度までの温度分布に対する研究成果から、レーザー照射点付近は数千℃の高温に達しており、また温度勾配は1マイクロメートルあたり数十℃以上になることがわかった。しかし、これらの解析においては、(1)レーザーの伝搬方向の温度分布を考慮していない(2)ガラス物性の温度依存性を考慮していない、という二つの大きな問題点があった。本年度においてはこれら二つの問題点を解決することに成功し、求まった温度分布からガラスの構造変化のメカニズムを解明するに至った。具体的には、円筒対称の熱拡散方程式の解析解を用い、実験で得られるレーザーの伝搬方向の構造変化を解析することにより温度分布を得た。得られた温度分布とガラスの比熱から見積もった光吸収率は、光の透過損失率と非常に良い一致を示した。このことは、求めた温度分布が妥当であることを意味する。そして構造変化の閾値温度がガラス転移温度付近であるという結果が得られ、この結果を粘弾性モデルで説明することに成功した。また、元素移動現象が生じている領域は1200Kに達しており、レーザー照射後の偏光顕微鏡観察により流動が起こっていることが示唆された。以上の成果は高繰り返しフェムト秒レーザーによるガラスの内部加工を理解するために重要であり、特に応用面ではガラス内部への三次元低損失光導波路を作製する際に有用な知見を与える。
2: おおむね順調に進展している
元素移動現象の定量的な評価には至らなかったが、レーザー照射中の温度分布解析において信頼性の高いデータが得られ、著名な論文誌(OPTICS EXPRESS)に論文がアクセプトされたため。
特に元素移動現象は温度勾配が駆動力となって生じることは証明できたが、いまだに元素の移動方向(高温側もしくは低温側)を決めるパラメータは明らかになっていない。パラメーターを決める方法としては単純な組成のガラスを用いた多量の比較実験、もしくは分子動力学等のシミュレーションにより、元素のどのパラメータが寄与しているのかを抽出する。
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