研究課題
〈研究の目的〉本研究では、DNA相同組換えタンパク質Rad51の活性を制御し得る低分子化合物の探索と、その作用機序を明らかにすることを目的としている。Rad51遺伝子を欠損させたマウスは胎生致死となり、一方でRad51を過剰発現させたニワトリ由来のDT40細胞では、染色体異常が観察される。さらに、種々のガン細胞においてRad51の発現量の変化が報告されていること、また、その発現量の変化がガン細胞の悪性化に関与しているとの報告もされている。以上のことから、Rad51は、細胞の恒常性維持において大変重要な役割を担っていると考えられる。よって、Rad51の活性や発現量の制御を可能とする化合物の同定は、細胞のガン化を防ぐ、もしくは悪性化したガン細胞の増殖を抑制する技術への発展に期待できる。<研究方法>Rad51は、DNA相同組換えにおいて最も重要な反応である、相同鎖対合及び相同鎖交換を触媒する。そこで、それぞれの反応を試験官内で再現した、D-loopアッセイ及びStrand Exchangeアッセイを化合物存在下で行い、化合物のRad51活性への効果を判定した。〈研究成果〉これまでに申請者は、Rad51と直接結合することでRad51の組換え活性を著しく阻害する化合物4,4'-diisothiocyanostilbene-2,2'-disulfonic acid(以下DIDSと略)を同定している。しかし、細胞にDIDSを添加すると細胞致死となり、in vitroでのRad51に対するDIDSの阻害効果を検証することが出来なかった。そこで、我々は新たに海綿抽出液から得られた化合物を用いて、再度上記アッセイ法により化合物のスクリーニングを行った。その結果、Rad51の組換え活性を阻害するhalenaquinoneを発見した。生化学的解析から、halenaquinoneもDIDSと同様に、Rad51と直接結合しRad51の組換え活性を阻害することが明らかとなった。さらに、halenaquinoneは、Rad51のダメージ依存的なフォーカス形成を阻害することが分かった。一方で、halenaquinoneとRad51との結合強度は、DIDSとRad51とのそれに比べ低く、Rad51のフォーカス形成を阻害するには高濃度のhalenaquinoneを必要とした。そこで、Rad51-DIDS及びRad51-halenaquinone複合体の共結晶を作製し、結晶構造解析を行うことで、それぞれの利点を組み合せた新規化合物のデザインを目指す。
すべて 2011 2010
すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件) 学会発表 (3件)
Genes Cells
巻: 16 ページ: 427-436
Nucleic Acids Res.
巻: 38 ページ: 5059-5074