研究概要 |
本研究の目的は,保存量が存在する可変形体型の身体を起点として,より複雑な固定形体型の身体へと拡張することで,生物の示す多様なロコモーション様式に通底する制御のからくりを数理的に解明し,大自由度ロボットの自律分散制御方策の設計論を確立することである.特に本研究では,線虫型(ヘビ型)・多脚型(昆虫型)のロボットを事例として採り上げ,可変形体型の身体に存在する保存量が固定形体型の身体ではどのような存在に置き換わるのかを,関節の粘弾性や多関節筋,可変形性などの力学的特性を採り上げ議論する. 平成21年度には,シミュレーション上ならびに実世界において二次元ヘビ型ロボットを構築し,摩擦環境の変動に対する実時間適応性,ならびに自律個間相互作用の局所的な欠損に対する耐故障性の検証を行った.各自律個の制御系として,可変形体型の身体を持つ真正粘菌の事例より得た「制御系・身体系・環境間の齟齬情報を抽出するDiscrepancy Function(齟齬関数)に基づく局所センサフィードバック制御」を導入した.また身体系においては,関節に受動ばねを実装することにより,三者間の齪齬情報の効果的な抽出を可能とした.これらの方策を組み込んだ結果,完全自律分散によるロコモーション生成の実現のみならず,(1)摩擦環境の変動に対しロコモーション形態(波数)を変化させて対応する環境適応性,ならびに(2)自律個間相互作用の局所的な欠損に対しロコモーションの機能を維持する耐故障性が著しく向上することが確認された.本結果は,シミュレーションのみならず実機においてもプリミティブながら確認されている. これらの結果は,真正粘菌のアメーバ様ロコモーションから抽出した制御方策が,ヘビ型の身体を持つ生物の示す這行様ロコモーションに通底する制御方策の一部分となり得ることを示唆している.また同時に,その制御方策には身体の力学的特性の積極的な活用がきわめて重要であることを示している.
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