有機薄膜太陽電池の研究において、その動作機構を理解することは設計指針の確立のために重要である。そこで、高分子薄膜太陽電池におけるフラーレン誘導体の両極輸送機構の解明を目指して研究を行った。 本年度は、近赤外光を吸収できる狭バンドギャップ高分子PCPDTBTとフラーレン誘導体PCBMとのブレンド膜における電荷生成および再結合の過程を高感度過渡吸収分光法によって研究した。この系に生成した電荷キャリアをナノ秒およびマイクロ秒時間領域で測定した。その結果、ナノ秒時間領域においてはいずれの系においてもPCPDTBTカチオンとPCBMアニオンのみがみられた。このことは、この時間領域においては、フラーレン誘導体が電子のみを輸送していることを示している。ところが、マイクロ秒時間領域においては電荷組成が異なっていた。すなわち、膜中のPCBM分率の低い系では引き続きPCPDTBTカチオンとPCBMアニオンのみがみられた一方、PCBM分率の高い系では両者に加えてPCBMアニオンも観測された。そして、正電荷キャリア全体に占めるPCBMカチオンの割合は時間の経過とともに増大することが分かった。このことは、マイクロ秒時間領域において、PCBMが電子のみならずホールをも輸送していることを示している。これらのことから、この系におけるPCBMカチオンはPCPDTBTドメインからPCBMへのホール注入によって生成していると結論づけた。 この成果はこれまで不明だったフラーレンカチオンの生成機構を明らかにした初めての例である。このことは有機薄膜太陽電池の動作機構の解明、および新機軸の太陽電池の設計指針構築において重要な情報であると考えられる。
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