本研究ではマウス脳形態の機能的意義を明らかにするために、終脳の層構造を遺伝的に機能欠損した変異マウス(Dab1cKO)の解析を行っている。Dab1cKOマウスを作成し、その脳形態異常が期待されたものである事を組織学的・解剖学的に確認した。昨年度末より、ホームケージにおける自発活動量の測定、オープンフィールドおよび高架式十字迷路という不安喚起場面における神経行動学的評価から、Dab1cKOマウスは小脳性運動失調を示さないが、不安を感じるべき場面で正確な評価が出来ないことが明らかになった。一方で、海馬依存性の記憶・学習課題である物体認識および場所認識テストにおいては異常が認められないという結果が得られた。cKOマウスが置かれた環境を正常に評価出来ていない反応は、DSM-IVに定義される統合失調症の分類の一つで、思考の錯乱や解体した行動が顕著な兆候である「破瓜型」を反映していると示唆される。これらの兆候を示す患者においては、記憶・学習障害は報告されておらず、神経行動学的な共通点が認められる。さらに、大脳新皮質の前頭前野領域における樹状突起棘数の減少がcKOマウスで認められた。樹状突起棘はシナプス領域に発現しニューロン可塑性を反映すると考えられている。認められた樹状突起棘数の減少は、Dab1cKOマウスにおいてニューロンの可塑的な変化が低下していることを反映するものである。加えて、大脳皮質介在ニューロンにおける神経伝達物質GABAを合成するGAD67の発現においても、対照群と比較して減少していることが明らかになった。この特徴は、ヒト統合失調症患者においても観察されており、思考の統合および評価という比較的高度な脳機能と関連していると考えられるが、Reelin/Dab1シグナルの機能欠損によってその形態学的・機能異常が引き起こされることが本実験より示唆された。
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