本研究は、東南アジアのアラブ人団体「イルシャード」を中東のイスラーム改革運動の影響を受けた団体という観点ら分析することを目的としている。そのために、これまで十分に検討されてこなかった団体の設立者であるスーダン人教師、アフマド・スールカティーの思想や団体における役割に着目した。平成21年度は、研究に必要な資料・文献を集めるための海外調査に活動の比重を置いた。一方、研究成果の一部から発表もおこなった。 海外調査は、インドネシア(2009年7月28日から2009年8月24日まで)とエジプト(2010年2月11日から2010年3月9日まで)で実施した。インドネシアでは、20世紀前半に発行されたアラビア語とインドネシア語(ムラユ語)の新聞・雑誌をジャカルタの国立図書館で調査した。さらに、ジャカルタ、ボゴール、スラバヤで、イルシャードの関係者が個人的に所蔵する文献を集めた。本研究は、中東からの影響を分析の対象としているために、エジプトにも多くの関係する資料・文献がある。カイロの国立図書館で、20世紀前半に発行された新聞・雑誌の複写を入手した。また、カイロ国際ブックフェアでも文献を集めることができた。 次に、主な研究成果の発表としては、International Conference : The Role and Position of Sayyid/Sharifs in Muslim Societies(2009年9月22日・23日、東京大学東洋文化研究所)における"Umma-wide Debate on Status of Sayyid/Sharif in Modern Era"と、東南アジア学会研究大会(12月5日・6日、慶應義塾大学)における「蘭領東インドにおけるアラブ人協会「イルシャード」の教育活動-設立者の理念とその展開」があげられる。これらの発表において、イルシャードのイスラーム改革団体という理念の側面の重要性が明らかになった。前者の発表内容に基づいた論文が、Kazuo Morimoto(ed.)The Prophet's Family in Muslim Societies(London : Routledge)において平成22年度に出版される予定である。
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