研究概要 |
平成21年度はまず修士論文においてS係数という不変量を導入して正規多様体の場合に確立した,安定性の局所的な必要条件を捉えた"K半安定なら半対数標準的"という予想を,非正規の場合も解決を試みて部分的に成功したところからスタートした.これはMumfordが60,70年代に問題にしていたことを現代的に極小モデルプログラムの強力な観点を用いてアプローチするもので,彼らの成果も条件付で現代的に大きく拡張し,説明するものである.その中でS係数の基礎を確立する修士論文の議論の中で本質的には導き出されていたDonaldson-二木不変量の公式に気づき,その証明を簡易化して,"Calabi予想の代数的対応物(標準因子がゼロまたは正なもののK安定性)"を任意標数で特異点つきで示した.特異点の条件がちょうど半対数標準性なので極小モデルプログラムとK安定性との整合性は更に深まり,これに基づいてK安定な偏極多様体のモジュライ構成理論があるのではないかと予想を立てて研究を始めた.その鍵となるであろう,モジュライ上のCM線束は微分幾何的にはWeil-Petersson計量に対応するものであるが,既に構成されたモジュライ上でその正値性を幾らか確立した.
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