当該年度において申請者は、様々な現実の複雑ネットワークと複数のネットワークモデルのフラクタル性をCluster-Growingの定義によるフラクタル次元とBox-Coveringの定義によるフラクタル次元を用いて調べた。従来の研究においてはこの二つのフラクタル次元の関する理解に混乱が見られていた。特にネットワークが長さスケールの大きいところでスモールワールド性を有する場合、Cluster-Growingの意味ではフラクタル性を持たないと考えられていた。このことは系のフラクタル性が測定方法に依存するということであり、系に特徴的長さが存在しないことがフラクタル性の意味であることを考えると整合性がとれていない。前年度の研究課題であったフラクタル性とスモールワールド性との関係を議論する際には、どちらのフラクタル次元の定義を用いてもネットワークのフラクタル性や臨界を議論することができることが明らかとなっていた。当該年度において申請者は、より基本的な課題である複雑ネットワークにおけるフラクタル性について調査し、系がフラクタル性を有する場合はどちらのフラクタル次元の定義を用いてもフラクタル性を評価できることを確認した。またそれぞれのフラクタル次元の値は一般に異なることも明らかとなった。さらに臨界点近傍におけるネットワークのスケーリング解析を行い、スケーリング理論を用いてネットワークの臨界現象を理解できることを明らかにした。すなわち、複雑ネットワークにおける構造クロスオーバーは通常のユークリッド空間における構造クロスオーバーと本質的に同質であることが明らかになった。これによってこれまで統一的理解に至っていなかったネットワークのフラクタル性とスモールワールド性の関係性、さらには複雑ネットワークにおける臨界現象の理解が格段に進むことは明白である。
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