本研究課題「動物"パーソナリティ"の測定と生物学的基盤に関する研究」は、動物の"パーソナリティ"(以下、スペースの都合上、性格と表記する)という複雑な生命現象について総合的かつ多面的に理解することを目的としている。平成21年度は基礎データの収集を主な課題に挙げ、イヌを中心として複数の動物種を対象に研究を進めてきた。第一のテーマである日本在来犬のアキタイヌを対象にした研究では、全国各地のアキタイヌのDNA試料を網羅的に収集し、性格に関連があると思われる候補遺伝子(ドーパミン受容体D4遺伝子・セロトニン受容体1A遺伝子・アンドロゲン受容体遺伝子(AR)他)の多型解析を行った。その結果、アキタイヌは他の犬種に比べてAR遺伝子多型の多様性が大きいこと、毛色によって繰り返し配列の長さ(多型タイプ)の頻度が大きく異なることといった新しい知見が得られた。これらの事実は、アキタイヌの性格と遺伝子との関連を解明するための足がかりとして、学問的価値が高い。第二のテーマに挙げたチンパンジーのストレス反応の個体差に関する研究では、飼育下チンパンジーの一集団の施設移送を機に、各個体の移動前後の行動変化を把握することを目的とした。継続的な行動観察と飼育スタッフによる「生活の質(Quality of Life)」の評価値の結果から、社会交渉や異常行動など心理学的要因に起因するような行動の個体差が移動前後において顕在化することが明らかになった。上記に挙げた主要な成果に加えて、ネコの性格とアンドロゲン受容体の関連、ゾウの性格候補遺伝子の探索、鳥類(ワシミミズク属)の性格関連遺伝子の多型解析など、性格という生物現象を総合的に捉えるべく幅広い共同研究を展開してきた。以上のように、本研究はこれまで科学的研究テーマとして扱われてこなかった動物の"パーソナリティ"の生物学的基盤について、最新の知見を数多く提出している。
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