今年度は、交付申請書に記載した通り、アキタイヌの性格関連候補遺伝子の多型判定及び行動特性の評価を中心に研究を進めた。日本在来犬の遺伝子構成は他の洋犬に比べてオオカミに類似しているため、アキタイヌをはじめとした日本犬の遺伝子と行動の関連を明らかにすることは、オオカミからイヌへの進化的背景を探る上で有用な情報を提供することにつながる。当該研究の成果として、アキタイヌのアンドロゲン受容体遺伝子の多様性が高いこと、その多型の頻度は毛色によって異なること、オスにおいて短いタイプの遺伝子を持っている個体は長いタイプを持っている個体よりも攻撃性が高い傾向にあること、といった知見が得られた。アンドロゲン受容体遺伝子と性格特性の関連が報告されたのは、ヒト以外の動物では初めてのことである。これらの成果は、イヌの生物科学に関する国際学会(ウィーン・7月)で発表され、更には海外の学術雑誌に出版された。現在、アキタイヌの行動や認知特性を詳細に検討するとともに、他の洋犬種(ラブラドールレトリーバー)との比較研究を進めており、日本犬の認知行動特性の理解に関する研究の展開が期待できる。他方、犬種の外見が知覚者の印象形成に及ぼす影響についての研究成果が国内の学術誌に出版された。また、昨年度実施された飼育下チンパンジーの移動前後の行動変化に関するデータが国際霊長類学会(京都・9月)で発表されるなど、動物の性格とその生物学的基盤に関する総合的な理解が進んでいる。
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