研究概要 |
本研究では,π共役化合物の新奇な物性の発現を目的に,典型元素の導入による化合物の電子構造の修飾と物性の相関を検討している.典型元素の各々が有する特徴を活用し,炭素のみで構築された化合物では達成し得ない物性の発現を目指す.本年度は,典型元素が特定の配位数をとる場合に帯びる電荷や電子受容性を利用した,大きな分極をもつ化合物の合成に取り組んだ.分子に大きな分極をもたせることで,分子内電荷移動遷移に由来する特徴的な光物性を発現できると考え,得られた化合物について物性評価を行った. 電荷を利用する試みとして,正電荷を帯びたホスホニウム基と負電荷を帯びたボラート基を置換基にもつアントラセンの合成に取り組み,前駆体であるジフルオロホスホランの合成を達成した.現在,ジフルオロホスホラン部位のフッ素の1つをボリル基へと移動させることにより,ホスホニウム基およびボラート基をもつ誘導体へと変換することを検討中である. またπ電子受容性をもつホウ素置換基を電子豊富な縮環オリゴチオフェンに導入した化合物群の合成を目指し,そのモデル反応としてベンゾチエノ[3,2-b]ベンゾボロールの合成法を開発した.得られた化合物は400-500nmの領域に幅広い吸収帯を示した.吸収極大波長は467nmであり,ホウ素をもたないベンゾチエノ[3,2-b]ベンゾチオフェンと比較して約140nm長波長側にシフトしていることが分かった.これは,ホウ素の導入により,化合物のLUMOが下がり,HOMO-LUMOギャップが狭くなったためと考えられる.
|