研究概要 |
本研究では,π共役化合物の新奇な物性の発現を目的に,典型元素の導入による化合物の電子構造の修飾を行っている.典型元素の各々が有する特徴を活用し,炭素のみで構築された化合物では達成し得ない物性の発現を目指す.本年度は,ホウ素がπ共役化合物に電子受容性を付与する性質に着目し,ホウ素を母骨格にもつボロール誘導体の合成と物性評価に取り組んだ.不安定なボロール骨格を安定化する目的で,チオフェンを縮環したボロール誘導体を設計した.電子豊富なチオフェンを電子受容性のボロールに縮環することで特徴的な物性が発現すると期待した. 目的化合物のジチエノ[3,2-b:2',3'-d]ボロール1およびビス(ベンゾチエノ)[3,2-b:2',3'-d]ボロール2は,ホウ酸エステルを原料に用いた,ホウ素上での段階的な置換基導入により得られた. 1および2はそれぞれ可逆な酸化還元波と非可逆な還元波を示した.2の酸化還元電位は-1.72Vでホスフィンオキシド類縁体よりも0.26V低かった.ホスフィンオキシドは強い電子求引基であり,化合物の還元電位を引き下げる性質をもつことが知られる.これに対し,ホウ素はより大きく還元電位を引き下げる性質をもつことがわかった. また,1は552nmに吸収極大波長を示した.これは,1とほぼ同じ共役長をもつジベンゾボロールと比較して130nm以上長波長シフトした値であった.また,2の吸収極大波長は600nmであり,ホウ素の代わりに他の元素を導入した類縁体よりも最大250nm以上も長波長の値であった.理論計算の結果,1,2は比較化合物よりも高いHOMOと低いLUMOをもつことがわかった.チオフェンとボロールを組み合わせることで,特異な電子構造が実現されることが示された.
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