本研究の目的は紅藻Cyanidium caldariumを用いて、真核生物の光化学系II (PSII)複合体の結晶構造を明らかにすることである。それにより真核生物におけるPSIIの構造と機能を解明するとともに、原核生物PSIIの構造との違いと進化に伴うPSII構造の最適化の過程を明らかにする。さらに高分解能でのPSIIの構造解析を行い、酸素発生反応を触媒しているMn4Caクラスターの詳細な構造と、酸素発生反応のメカニズムを解明する。これらを遂行するため、今年度では結晶の分解能の向上、位相取得のための重原子同型置換体の作成、及び構造解析を行った。 昨年度まで好熱性、好酸性紅藻Cyanidium caldariumを用いてPSIIの精製・結晶化を行い、Spring-8のX線を利用して分解能2.9Åの回折データを収集することに成功していた。本年度では、結晶の分解能をさらに向上させるため、精製方法・脱水処理条件の改善などを行い、分解能2.74Åの回折データを得ることに成功した。 また重原子同型置換体作成では昨年報告した重原子の他に、さらに2種の重原子置換体結晶から位相を取得することに成功した。得られた位相情報を用いて構造解析を行った結果、シアノバクテリアには存在せず、紅藻に存在する4つ目の表在性タンパク質であるPsbQ'の立体構造・結合位置を明らかにすることができた。さらにシアノバクテリアには存在しない新たな膜貫通サブユニットの存在も示唆された。本研究で取得したデータをもとに、紅藻PSIIの詳細な構造解析が可能となった。
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