研究概要 |
Trypanosoma evansiは、アフリカ、アジア、南米などに広く分布し、アブなど吸血昆虫の機械的伝播により哺乳動物に感染し、発熱や貧血を主徴とする疾患を引き起こす。90年代以降、フィリピン共和国ではT.evansiの強毒化が報告され、家畜での被害が深刻化している。本研究では、T.evansiの病原性を規定する因子の同定及びその性状解析を行い、T.evansiの強毒化の分子機構を明らかにすることを目的とする。 1.T.evansiのクローン化と病原性比較解析 病原性比較解析を行うため、フィリピン共和国で採材したT.evansiをクローン化した。野外で採取した原虫株を、液体培地HMI-9に馴化培養後、3度の限界希釈法によりクローン化原虫株12株を樹立した。各クローン化原虫株はBALB/cマウスに腹腔内投与して、その病原性を生存日数および体内の原虫数の変化で評価した。その結果、樹立した12株のうち、3株で特に強い病原性が、1株で弱い病原性が確認された。 2.病原性規定遺伝子の同定および解析 強毒T.evansiで発現が強いが、弱毒T.evansiで発現が弱い遺伝子に病原性を規定する遺伝子があると考えられる。そこで、病原性に差が認められた2つの株を用いたcDNAサブトラクション法を行った。強毒株,弱毒株からcDNAを合成後、cDNAサブトラクション法を行い、サブトラクション産物cDNAライブラリーを得た。現在、強毒株をtester、弱毒株をdriverとしたcDNAライブラリーのクローニングおよびシーケンシング解析を行っている。現在までに135クローンの解析が終了、複数の病原性規定候補遺伝子が得られた。 T.evansiの病原性を規定する因子およびその機能解析の報告は非常に限られている。今後、病原性候補遺伝子の中から病原性規定因子を同定し、機能解析を行う。本研究は近年強毒化しているT.evansi原虫だけでなく、新規疾病防除法の開発など家畜衛生領域において非常に重要な基礎的知見を提供するものである。
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