研究概要 |
後期中新世はヒマラヤ山脈の隆起に伴ってモンスーン気候が発達し,降水量が増加したとされる時代である。本研究は,後期中新世の大型植物化石群を用いて気候変化と草本植生の種多様性増加の過程を調べ,モンスーン気候の発達が草本植生に与えた影響を明らかにすることを目的としている。本研究では後期中新世の種実化石と現生種実の形態を比較し種実化石を同定し,形態を記載する。また,種多様性や草本種の生活形(一年生・多年生など)に着目し,植生変遷を明らかにする。さらに,草本種の出現過程をヨーロッパと比較することで,一年生草本や日本固有の草本分類群が出現したプロセスを解明する。これらの目的を達成するために,本年度は後期中新世の植物化石標本採集と,現生種実標本採集を行った。本年度は特に後期中新世の植物化石標本を得ることに重点をおいて研究を行った。後期中新世の植物化石標本を得るために埼玉県深谷市に分布する後期中新世の楊井層の地質調査を行い,大型植物化石を含む堆積物を採取した。また,楊井層の凝灰岩を用いてフィッショントラック年代も測定した。楊井層の調査では種実化石を含む多数の層が見つかり,楊井層の種実化石を用いて後期中新世の植生を復元できることが確認された。楊井層の種実化石解析の結果,木本は41分類群,草本は11分類群,藤本は3分類群が確認された。この他,シダ植物も1分類群確認された。これらの結果から,楊井層の植物化石が堆積した低湿地にはメタセコイアやスイショウ,スゲ属が分布する針葉樹林が,斜面下部にはヒサカキやマンサク科,コウヨウザンが分布する針広混交林が,斜面上部にはブナやイヌシデ,コナラ亜属が分布する落葉広葉樹林が広がっていたことが明らかになった。また,草本種ではソクズやキランソウ属,イラクサ科などの存在が確認された。
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